ドイツ ドレスデン 国立研究機関


自己紹介とご挨拶

こんにちは。先日、繋がる留学日記の寄稿依頼を受けまして、今回、恐縮ながらこの場をお借りしまして、私の留学について紹介させて頂きます。

簡単に自己紹介しますと、佐賀大学工学系研究科循環物質化学専攻1年の山下雄大といいます。高分子化学、有機材料化学が私の主な専門分野になります。
この分野は皆さんの身近にある日用品、洗剤、シャンプー、化粧品、太陽電池、有機ディスプレイ等に応用されており、もしかしたら化学という学問の中でも最も皆さんに馴染みのある分野になるかもしれませんね。
身近にある存在する有機材料


現在はドイツのドレスデンという街にあるLeibniz 高分子研究所という国立研究機関にて、研究留学をしています。詳細は後述しますが、研究所では太陽電池やレーザー発振、有機LEDといったものに応用が期待される“導電性有機超薄膜の開発“(※簡単に言えば、電気を流すことのできる物凄く薄い膜)を目指し、研究に励んでいます。自分の研究の成果がいつか社会に還元され、そこで何らかの経済的価値を生み出せればと願わんばかりです。
研究所の正門。最初、家かと思いました






研究所の内部

実は今回のこの留学日記を書くのは“初めて“ではありません。と、いいますのも、20162-20172月までの 1年間、中国の北京工業大学に交換留学をする機会を頂き、その際にも、この留学日記を通じて中国での暮らし、授業、国際交流について紹介しました。そのため、今回の“留学”という形での長期間の海外滞在は私にとって2回目になります。

2度目の留学に至った経緯、そして現地での生活、気づき、研究、そして金銭面等をこの場に記そうと思います。どれだけの方がこの日記を閲覧しているのかどうかはわかりませんが、今回の投稿が海外や国際交流に興味を持つ全ての方々への有益な情報発信、そして留学を迷っている方々の背中を後押しできるものになれば幸いです。

️1度目の留学と、2度目の留学を決意するまで

大学3年生の夏、佐賀大学の国際交流団体に所属し、異文化のバックグラウンドを持つ様々な国籍の留学生との交流の楽しさに目覚めていた僕は中国北京への留学を決意します。

当時の私は大学生活を謳歌し充実した時間を過ごしていた一方で、大学生活の莫大な時間を専門分野にひたすら費やすだけの日々に何とも言葉にしがたい不安と違和感を感じていました。さらに日頃から母国を離れ懸命に勉学に励む留学生の友人の姿を見て、自分も当時の現状を打破したい、彼らのように環境を変えて何かに打ち込んでみたいという気持ちが強まり、留学に踏み切りました。中国を選択した大きな理由はなく、単に中国人の友人が多かったのと、様々な経緯があって日中友好の促進を目指すイベント等によく参加していたためです。

留学中は、中国語の授業や英語で科学系(science)の授業を履修しながら、研究室にも所属し、新規化学触媒開発の研究に従事していました。この中国留学は英語、中国語の語学力、専門分野の成長をもたらしただけでなく、中国文化、社会、人に対する理解を深めることができた非常に実りある期間であったと思います。
そして、無事研究室に配属され大学5年目の最終年を迎えました。

専門の研究活動に尽力する日々を過ごし、九州地区の研究会や国際学会等にも積極的に参加し、一年間素晴らしい経験を積むことができたと思います。そうして、いずれは研究者、技術者として日本のみならず世界の研究機関でも活躍できる人材になれたらと理想を描き始めるのですが、その反面、描く理想と現状の差が大きすぎることも同時に強く実感するようになりました。というのは、学会発表を通じて、自分の専門知識の浅さ、他大学の学生と比較し様々な装置、実験法を経験する機会の少なさを感じており、さらに加えて海外での学会という国際舞台で、海外の研究者と外国語で対等に討論ができなかった、自分の意見を主張できなかったという実体験が自分の中に強くもどかしさ、そして悔しさとして残っていたからです。

ある日、同じ研究室に所属する友人2名が研究留学をするという話を聞き、それに触発された形で、私も留学を意識し始めました。さらに、現状を少しでも改善したい、異なる環境に身を置き、自分の確固たる軸を持って他の研究者との議論に挑みたい、そしてその議論の場を培ってきた専門的知識のアウトプットの場にしたい、そんな複数の想いが重なり、“行くなら今しかない”と思い、今回の研究留学を決断しました。



幸いにも私の研究室の担当の先生が非常に理解のある方で、僕の意思を尊重し、かつ応援してくださったので、これもまた今回の決断を後押し、最終的に心置き無く旅立つことができました。また、受け入れ先の研究所選びから出発するまでに佐賀大学国際課の方々の手厚い支援があって、今回の研究留学が実現しています。本当にありがとうございました。
留学できたのはこの佐賀大学研究室のおかげです


現地での生活 (手続き編)

最初の1ヶ月は生活の準備を整えるために非常に苦労しました。まず、ドイツは移民の問題もあってか外国人の規制に関して非常に厳しく、滞在するための書類手続き、visa申請までの過程が長いです。さらにドイツを尋ねる外国人が多いせいか家探しも非常に難航しました。長期滞在者の中には、なかなか住む場所が見つからないため、ホテル暮らしやホームステイを余儀なくされる方もいるようです。また、研究所に所属する関係で、研究データの取り扱いに関する誓約書作成、労働時間の契約等も行う必要があり、事務的な手続きにひたすら追われた1ヶ月でした。

ようやく見つけた20階建てのアパート






現地での生活 (仕事、時間)

さて、ここでの研究生活に関してですが、前提として、私が所属しているのは大学ではなく、研究機関であるため、労働者と同様に学生でない研究員の方々と日々実験をしています。
分析中、頑張っているふりです





朝仕事が始まる時間帯が非常に早く、僕と同じ研究室内にいる女性研究員の方は午前6時半から実験を始め、午後2時には仕事を終え帰宅します。子供がいるため、家事の関係で早く帰るようです。この女性だけでなく、他の研究員の方々もだいたい朝7時ごろには研究所に出勤し、遅くとも3時半から4時半には帰路につきます。ここでは労働者の権利が非常に強いらしく、残業のような居残りはまずないです。早く帰って、家族と時間を過ごす、友人とお酒を楽しむ等プライベートを優先させると聞きました。仕事仲間で食事に行く、飲みに行くみたいな日本馴染みの文化もここではそんなに多くないようです。


労働者の権利がしっかり保証されている分、勤務態度は真面目で、勤務時間中はみな黙々と実験しています。(おそらく日本の研究機関に勤めている方々もそうだろうとは思いますが。) 日本では非常にアットホームな雰囲気が漂う研究室でメンバーに囲まれながら自分のペースでのんびり実験していたため、この殺伐とした雰囲気にはなかなかなれませんでした。働く研究員の方々だけでなく、博士課程の学生も研究所と契約を結び、お金を貰いながら実験に励んでいるので、死に物狂いで成果を出そうと実験しています。ただし、夜遅くまで残ったりはしません。契約した時間内でひたすら研究と向き合います。

私が残って実験していると早く帰るように促されますし、以前、博士課程の学生と話をしていて、実験が上手くいかないので、土曜日も来ようとしていることを伝えると、“来るべきではない。休んだ方がいい”と厳しく説得されました。(土曜日に出勤するには上司にあたる指導研究員の許可が必要で、許可がでなかった。) やはり、こういった環境に身を置くと、日本人は働きすぎでないかと度々考えさせられます。


現地での生活 (言語)

さて、ここでの言語についてですが、私には4人の指導研究員と指導係がいて、うち2名がドイツ人、そして2人がウクライナ人、最後の1人が中国人です。そのためグループでの会議や報告会での共通の言語は英語になります。研究所内は様々な国出身の研究者がいますので、やはり研究所内の公用語も英語な気がします。


私の場合、中国やシンガポール出身の研究者と話すときは中国語を使用しますが、それ以外のドイツ人を含む全ての研究者とは基本英語を用いて会話します。しかし、たまに英語が話せない研究員の方やスタッフの方もいて、その方達と意思疎通を図る場合はドイツ語を使う必要があります。こちらに来る前にドイツ語を少し勉強しており、現地でも勉強を続けているのですが、会話するにはまだまだです。本当に理解できない場合は、翻訳機に頼っています。

研究所の兄貴と。中国人28歳。私24歳

現地での生活 (研究)

研究に関してですが、ドイツ人研究員の生活に合わせ、朝の8時に出勤し、夕方の4時ごろまで実験をしています。研究所からテーマ(※電気を流す薄膜の開発)を与えられており、そのテーマに沿って自ら研究の日程を立て、器具や試薬を揃えて自分で実験を進めていかなければなりません。必要な装置があれば、担当の研究員にメールし、装置を保有する研究室に連絡を取ってもらいます。合成が必要な試薬が存在すれば、有機合成チームに依頼し、試薬を作ってもらいます。
 
初めて合成を依頼しました
みなさん、お忙しいので何かをお願いするのは大変気が引けますが、ここでは要求があれば遠慮せずに伝える、ちょっと自己中心的でわがままなくらいがちょうどいいみたいです。研究員に相談したい際もメールでアポをとり、自分で資料を作成し確認してもらいます。日本では基本的に先生の指示待ちが多かったのですが、この様に研究所内では常に主体性が問われています。



大学内で試薬や、器具を購入する際は一度、用途と価格を先生に提示し、予算の都合を考え注文するというのが一般的です。ここで感動したのは、研究所内に器具のストア、試薬のストア、工具のストアが設置されており、必要な物資は必要な分だけその場で手に入れることができます。必要な試薬、器具がないから実験ができないという状況に陥ることは今のところありません。こういった機会は滅多にないので、ついついフラスコやビーカー類を必要もないのに注文してしまい机が器具で溢れかえっています。

現在、従事している研究の分野は、私の専門の延長でありながら、7割は新しい
知識を要するため、座学も当然必要になります。9月、10月は帰宅後、専門の学術論文とずっとにらめっこしていました。わからないことがあるたびにネットで検索し調べ理解し、わからなければ研究員を頼る、その繰り返しでなんとか新しい分野の知識もついてきている気がします。

私がこれまでに苦手としていたディスカッションも、5回ほどすでに実施されたのですが、戸惑いや緊張がありながらも奮起して意見を述べたり、相手の意見に対し質問や反論したりして果敢に議論に挑んでいます。相手はプロの研究員達ですので語学力はともかく、知識量と経験で絶対的な差があり5回中5回ともボコボコにされました。しかし、逃げす立ち向かって、返り討ちにされているので気持ちは清々しいです。これがドイツの科学技術の最先端を担う人々たちかと感銘を受けながら、私はたくましく生きています。今後もこの姿勢は大事にし、帰国する前には少しでも対等に話ができるようになればと願っています。

現地での生活 (暮らし) 
私はベトナム人と中国人とともに3人で生活しています。3人暮らしとはいっても、部屋は別々でトイレ、シャワー、キッチン、共用の部屋をシェアするフラットシェアです。(※イメージはテラスハウス。)ベトナム人は日本の金沢にある研究機関に所属する博士で、中国人は研究留学中の博士課程の学生です。私たち3人は基本、現地の学生と交流する機会がほとんどないため、同世代のドイツ人の友人が少ないです。故に、基本的に3人で一緒にいます。休日はこの2人と外出するか、もしくは国際交流団体主催のフットサルや卓球に参加し体を動かします。たまに、現地の日本人の方々との交流会にも参加しています。また高速バスや鉄道を利用して、簡単に他の海外にも行くことが可能です。10月末には休日を利用し、チェコのプラハに行ってきました。
チェコの街並み



食事に関しては、外食するとお金がかかるので、基本的に毎日、自炊しています。ドイツは野菜、果物、肉類、乳製品がかなり安いので、自炊をすると月の食費を1万円〜2万円以内に抑えることは容易です。中国人のフラットメイトは初海外だったらしく、心配した彼の母親が炊飯器やポットなどの調理器具を一式彼に持たせたために、その炊飯器を用いてお米も炊けます。彼は料理が全くできないので、私が全て彼の母親に感謝しながら調理器具を使っています。谢谢
 
このサイズで400円ほど。高級品です。

人工化学調味料。味の素。日本の誇り

近くにアジアマーケットがあるので,日本の料理も作ることができます。先日は味の素とカレーを購入しました。故に現在、食生活で大きく困っていることはありません。毎日のビールとご飯が楽しみです。


金銭面について 
多くの人が“留学=お金がかかる“といったイメージを持っているようです。確かに、それは間違っていません。長期間の生活費や、滞在費、保険等を考えればかなりのお金が必要となります。しかし、現在は学校だけでなく多くの民間の団体が学生の留学をサポートしてくださっており、私もそのサポートを受けている1人です。

私は今回の留学にあたって、文科省と民間企業が連携して学生の留学をサポートする官民協同のプロジェクト“トビタテ留学Japan”という留学支援制度により奨学金をいただいております。この奨学金制度の詳細はhttps://www.tobitate.mext.go.jpをご覧ください。
自分の留学場所、留学期間、目的に応じて自分にあった奨学金制度を探すことをオススメします。

◼️留学のハードルは高くない
私の尊敬する高校の恩師が“人間が大きく成長するには環境を変えるか、付き合う人間を変えるのがいい“と日頃から仰っていました。(トビタテ留学JAPANのプロジェクトリーダーも同様のことを言っていましたが。) 私はこの言葉は自分のこれまでの経験上、非常に的を得たものであると感じています。慣れてしまった環境、人間関係はもちろん大事ですが、その一方で新しいことに踏み出す一歩を躊躇させてしまうように思えるのです。

留学をすれば当然ガラリと環境も変わりますし、知らないコミュニティに入っていくので一から人間関係を構築していく必要があります。時に、孤独と向き合う瞬間もあるかもしれません。それがゆえに人間的にも能力的にも成長できる絶好の機会であることに間違いないでしょう。

その一方で、皆さんの思っている以上に簡単に留学はできます。留学のハードルは高くはありません。大学進学のために親元、故郷を離れ、一人暮らしするような感覚に類似しています。多くの方が留学を特別視する傾向にあるようですが、現地に足を運んでしまえば、私たち人間はすごいものですぐに意識が環境に慣れ始め、しまいに体も環境に順応してしまいます。人間は強いです。

何か大学生活での現状にモヤモヤしている学生の皆さんには、留学が全てとは言いませんが、選択肢の一つとしてぜひオススメします。

⬛️最後に
さてここまで、拙い文章ではありましたが、一般的な語学留学とは異なる研究留学のイメージが少しでも湧いたでしょうか。 
私自身まだまだ未熟な面も多く、こうしてみなさんにアドバイスするのは大変恐縮なのですが、少しでも日本の皆さんへの情報発信源として貢献できれば幸いです。何かご質問等ありましたら、Facebook等を通じて気軽に連絡してくださいね。

残りの滞在期間、何かしらの爪痕をドイツに残せるように足掻きます。
ドイツでのベストショット 馬の真似


 
友人と

友人と



読んで頂きありがとうございました。

佐賀大学工学系研究科一年 
山下雄大



コメント